FOTOFARM信州 風景情報バックナンバー
02月03日
風景情報
◇白馬村 遠見尾根 撮影行 2/2~3◇
「北アルプス北部の天気は回復に」の予報に決断し、2日午後、すし詰めの機材で
はち切れんばかりのザックを車に押し込み、家を出る。
目指すは北アルプスの五竜岳へと続く遠見尾根だ。
北へと車を走らせながら、私の胸の内では期待と不安が複雑に交じり合っていた。
夏や秋の山なら、かなり経験を積んだつもりだが、冬山は今回で僅か2度目。
しかも1度目は3月の山で、それも友人のアルピニストにサポートされての、
おんぶに抱っこの山行きだった。
ところが今回は単独。
中年オヤジの「スタンド バイ ミー」というわけだ。
先輩のアドバイスや、本から学んだ技術など、頭の中で幾度も反すうさせて先を急いだ。
pm3時、白馬五竜スキー場のゴンドラ乗り場「とおみ駅」に着く。
東の空は穏やかな快晴なのだが、これから向かう西方の山上からは、雪煙の様な雲が
次々に噴出している。
さて、どうしたものか。入山を躊躇し、しばらく様子を見ることにする。
pm4時、入山を決断。登山届けを提出しゴンドラに乗り込む。
「アルプス平駅」に着いてみると、その先を繋ぐ「アルプス第一ペアリフト」も運良く、動いていた。
天気予報では上向きを告げていたし、入山は続行だ。
リフトを降りたところで身支度を整える。
スパッツを付けスノーシューを履き、ヘッドランプも装着する。
ピッケルを持ってきた分、ストックは1本にしたが、これは登り始めて直ぐに失敗だと判った。
新雪が厚く乗っていて、スノーシューでも沈み込むため、1本ストックでは踏ん張りが利かない。
前の雪を膝でつぶしてからスノーシューを蹴り出す、2段歩きを強いられる。
急斜面でバランスを崩してこけると、立ち上がることさえ容易でない。
しかたなく、わざと1回転落ちて体勢を立て直すのだが、顔まで雪まみれだ。
夏山なら一寸そこまでと言える「地蔵の頭」に立つまでに、三歩進んで二歩下がるの四苦八苦、
大汗をかかされた。
夕闇が迫っているので、予定通り「地蔵の鞍部」にテン張ることにする。
雪原から潅木の数本出ている脇をテン場に決める。
ピッケルにスコップを装着し、ヘッドランプの灯りを頼りに雪を掘る。
テントの面積より2回り程は広い範囲を掘り下げ整地するのは、容易でない。
整地出来たところで、主な張り綱9本のアンカーは、更に雪をこれでもかと1メートル程も
掘り下げ、がっちりと埋設した。
北西を主風向と読み、特にこの方角のアンカーだけは潅木の幹に取り、万全を期した。
暗くなっても風が止まず、作業がはかどらない。
時折やってくるブリザードに唇が刺身の「洗い」の様なプリプリの感触になってしまう。
たまりかね、目出帽をかぶる。
風の止む一瞬を狙ってテントを取り出し、テントの張り綱と、アンカーの張り綱をカラビナで繋ぐ。
これで一安心。
冬季用の外張りを重ね張りし、外張りの周囲のスカートに雪を乗せて固め、ようやく完成だ。
飲料水を作るための雪を雪袋に詰め、ザックや身体に着いた雪をブラシで落としてテントに潜り込む。
テントマットを全面に敷き詰め、更に山のベッドと言えるサーマレスマットを片側に広げた。
サーマレスマットの上で胡坐をかき、雪を溶かして湯を作る。
たためば片手に握り込める小型バーナーの何と頼もしいことか。
そのパワフルな炎を眺めながら自宅の妻に携帯を掛け、無事を告げる。
続いて長野県北部の天気予報に掛けると、
「冬型の気圧配置は緩んで、広く移動性の高気圧に覆われる見込み」
と報じている。良し良し。
ほくそ笑んでいる私に水を差すように携帯が数回うなり声を立てた。
見ると「充電して下さい」の表示が。
これほど早くバッテリーが切れるとは・・・低温による電圧低下には著しいものがあるらしい。
予備のバッテリーは1つしかない。
以後は使用を控え、掛ける時以外は電源を落として節電することにしよう。
この携帯の電池不足が、後で私に大きな試練を与えることになる。
沸いた湯はテルモスに移して確保し、再び沸かした湯で「もち入り味噌ラーメン」を作り、
晩飯を済ませる。
悲しいのは酒が一滴も無いことだ。
今回は大型カメラまで持ってきたので、何かで荷を減らさざるを得なかった。
当然、必需品でない酒はリストから外したわけだが、私の選択に誤りは・・・・。
シュラフに潜り込み、膝を抱えて禁断症状に耐えながら、その割には案外早く眠りに落ちた。
3日am4時起床。風はすっかり止んでいた。
テントから頭を出して空を眺めると、星が鮮やかに輝いている。
ソイジョイ、ソーセージ、チーズ、アーモンド、インスタントコーヒーで朝食を済ませる。
食後の運動に空身で、スノーシューだけを履いて雪踏みに出る。
後で上部に登って行く時のトレースをつけておくためだ。
1時間ほど登ったところで止め、急いで引き返す。
テントを通り越し、先ずは「地蔵の頭」に登り、モルゲンロートに備える。。
6時46分、白馬三山の稜線にモルゲンロートが始まる。
早朝撮影を終え、インスタントコーヒーをすすりながら携帯で天気予報を聞く。
「今日明日と晴れるでしょう。一時的に冬型が強まるでしょう。」
おかしいなあ。冬型が強まって、北アルプス北部が晴れるわけがないのだが・・・。
携帯を一旦切ったものの気に掛かり、再び予報に掛けてみる。
間違いない。同じ内容を繰り返している。
私はこの予報に少し引っ掛かるものを感じたが、いずれにしても今日明日は晴れだと
言っているんだから、一時的に多少の崩れはあっても良しとしよう。
それに少し崩れた後の方が、好転する瞬間のドラマチックな風景に出会えるというものだ。
これはチャンスかもしれない。
よし、予定通り今夜もここで泊まりに決定だ。
すでにテントの設営も済んでいるという状況下で、私は少し強気だった。
一片の雲も無い青空を見渡しながら、私は携帯の電源を落とした。
そうと決めたら撮影だ。
私は、写真機材と非常食を詰めたザックを背負い、小遠見山目指して標高差360メートルを
登って行った。
白馬三山のモルゲンロート
唐松岳のモルゲンロート
我テント
昨夜の訪問者
深夜、何かがテントに近づいて来る気配に一瞬、凍りついた。
何だ、ノウサギだったのか。
苦笑いしつつ記念に撮影。
トレースを振り返る
テントから「小遠見山」目指して標高差360メートルを登る。
少し登ったところから、テン場の鞍部を振り返る。
右手の小高い所が「地蔵の頭」。
山スキーのグループ
山スキーとスノーボーダーのグループが数組、私を追い越して登っていった。
尋ねると、どのグループも日帰り入山だった。
単独登山者にとってトレースを付けてもらえるのは、涙が出るほど嬉しい。
スノーボーダー
右・小遠見山 左・天狗岳
五竜岳
五竜岳に黒く現れる四ツ菱の文様は、戦国時代の武田家の家紋と同じデザインで、
この山のトレードマーク。
春の残雪期にはもっと鮮明に現れる。
手前の尾根は自分のいる遠見尾根の延長で、白岳を経て五竜岳に続いている。
雪庇と奥が小遠見山
「二ノ背髪」の雪庇。美しいが近付くと危険だ。
後30分程で小遠見山に立てる。
信越境の名山群
白馬の里を前景に、背後には右から西岳、高妻山、乙妻山、妙高山、火打山、
焼山と、信越境の名山がひしめく。
飯綱山
小遠見山からの眺望。
登山者と鹿島槍ヶ岳
昼食をとりながら眺望を楽しむ登山者。
小遠見山山頂 2007m
過去、この遠見尾根には幾度か通っているが、昨年の夏山で登った時、この標識に
気付いて以来、私が密かに「2007年の山」と決めていた「小遠見山」山頂。
もちろんこの山頂には、そんな数字合わせなど抜きにしても他に比類ない、抜群の
眺望が360度の超ワイドで備わっている。
遠見尾根が中遠見山、大遠見山、西遠見山を経て五竜岳へと延びている。
残雪と新緑の春、花の夏、紅葉の秋と、この尾根の魅力は語り尽くせない。
爺ヶ岳
小遠見山から見た爺ヶ岳。
山ひだの重なりが美しい。
右・浅間山 左・根子岳と四阿山
小遠見山からの眺望。
この山頂から「日本百名山」の中の、いったい何峰を望むことが出来るのだろうか。
浅間山、四阿山、高妻山、妙高山、火打山、雨飾山、白馬岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳・・・
後はいずれ調べて、何かの機会に。
中央奥が横手山 左奥が岩菅山
小遠見山からの眺望。
唐松岳