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雪の彼方へ (7)

 標高千五百メートルにある、アルプス平駅のレストハウスには大勢の関係者が詰め掛けていた。
 晃はその中に文吉と木村辰彦の顔を見付け駆け寄った。
 「晃・・・」
 と言ったきり文吉は次の言葉を見付けられないでいた。
 涙が陽に焼けた頬に光っている。
 

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 晃は文吉のこれほど生気の抜けた顔を見たのは初めてだった。
 晃は隣りの辰彦の顔をみた。
 「救助隊を一旦下に降ろすことに決まったそうだ・・・」 辰彦が力無く言った。
 「えっ!そんな・・・」
 「吹雪は明け方まで回復する見込みがないから、明朝、回復を待って救助に向かうそうだ」
 文吉がうめくように言った。
 そんな重大なことを決めていながら、どうして早く教えてくれなかったんだ・・・晃の目が、
救助隊長の遠山を探した。遠山は直ぐ近くで晃たちの方に視線を送りながら、隊員や警察官達と
打ち合わせをしていたが、一瞬、晃と目が合うと視線を逸らした。
 晃は急ぎ足で遠山のところに行くと、
 「隊長さんっ、救助に向かってもらえませんかっ、私も行きますからっ、お願いしますっ」
 遠山にすがって頼んだ。
 「泉さん、外を見てくれ。この嵐では、どんなベテランを集めても出動は不可能だよ。二重遭
難になってしまう。それはあなたにだって分かっている筈だ」
 すると、その様子を近くで見ていた若者が歩み寄り、遠山の手を掴むと、
 「隊長さんっ、お願いしますっ。お願いですから、助けてあげてくださいっ、助けてあげて・・・」
 と、涙と鼻水で顔をクシャクシャにして遠山にすがりついた。大杉誠だった。
 その光景を理解できないでいる晃の腕を文吉が引いて、部屋の隅に連れて行った。
 五郎と辰彦もついてきた。


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 「あの青年はなあ・・・」
 文吉は関係者と大杉本人から聞き合わせた、この遭難の全てを語った。
 晃は聞きながら、遠山にすがり続ける大杉の姿を空ろに眺めていた。
 大杉の手を振りほどいて逃れた遠山が、四人の所へやって来た。
 「天候は明朝回復の予報だし、ヘリの要請もしてある。回復次第に救助に向かうから、それま
で辛抱してくれ。私だって子供を持つ親だ、家族もいるから、あなた達の気持ちは痛いほど分か
る。それに、隊員は明朝三時に下の駅に集合させることにしたから、今は一刻も早く彼等を休ま
せて、明日の朝、ベストの状態で安全に、確実に救出させるのが私の任務なんだ、分かってくれ。
それから二名の隊員を残していくが、彼等が交代でここに張り付いているから、何かあったら相
談してください。それと皆さんが仮眠する部屋と食事を用意させたから、皆さんも早目に休んで
明日に備えた方がいいですよ。部屋の場所は、そこの隊員に声を掛けてもらえば案内しますから
ね。じゃあ、我々は一旦下りるが、明朝ここを本部にして全力で救助に当たりますから」
 遠山の判断が正しいことも、他に道が無いことも、窓の外で荒れ狂う猛吹雪が教えていた。
 「佐野君、ちょっと・・・」
 遠山が五郎を連れて行った。
 「佐野君・・・分かっていると思うが、こんな時、身内に冷静になれと言っても無理だ。どん
な無茶な行動をとるか知れないし、しかも息子さんは山の装備も持ってきている。しっかり見張
って、万に一つも命を無駄にさせるような事の起こらないように、頼んだぞ」
 遠山は五郎に、そう言い残すと隊員達を連れて雪上車へと向かった。

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