イタリア男 (4)
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「私も今日知ったばかりなんだけど、あの子の気持ちを揺るがすような出来事が、ずっと前に
起きていたのよ」
「なんだい、その出来事って?」
「以前、家庭教師をしてくれた漆山(うるしやま)さんなんだけど・・・」
「ああ、中三の時、家庭教師してくれた洋子さんか・・・彼女と何かあったのか?ちょくちょ
く会っていたみたいだけど」
「彼女、この春に亡くなったんですって。私、今日までぜんぜん知らないでいたわ」
「亡くなったのかっ!・・・あんなに若いのに気の毒に。病気だったのかい、それとも事故?」
「それが分からないのよ。私、早苗のことを相談しようと思って彼女の携帯に掛けたんだけど、
『この番号は現在使われておりません』ってなっちゃって。気になって仕方ないから、夕方帰
ってきた早苗を捉まえて聞いたのよ。そうしたら『洋子さんは亡くなった』って言うじゃない、
もうびっくりして・・・それも、今年の春なんですって。もっと詳しく聞かせてって言ったん
だけど、それっきり部屋に篭っちゃって、いくら声を掛けても開けてくれないのよ。でも春っ
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ていえば、早苗が引き篭るようになったのも春からじゃない。きっと洋子さんの亡くなったの
が原因じゃないかって思うの」
「可能性は高いな。とにかく死因を確かめなくちゃいけないが、なにか調べるのにいい方法は
ないかなあ・・・」
「方法はあるわ。洋子さんを紹介してくれたのは、中学のPTAの集まりで知り合った伊沢さ
んだもの。もう長いこと会ってないけど、伊沢さんに聞いたらきっと分かると思う」
「早速、明日聞いてみてくれるかい?」
「ええ、どうしたものかって迷っていたけど、やっぱり明日電話してみるわね・・・せっかく
目標の一流企業に入社出来たのに、たった一年で亡くなってしまうなんて気の毒ね・・・まさ
か自殺したんじゃ」
「早苗の様子からして、違うとは言い切れないな。いずれにしても、ようやく原因がはっきり
するかも知れないぞ・・・」